高野連


本を出版すると「献本リスト」を版元にメールする。同業者や野球界関係者、新聞社などに本を送って宣伝してもらうのだ。
私の場合、それとは別に一筆添えたいような人のために、初刷りを自分で送っている。
添える手紙はもちろんパソコンで書くが、宛名などは手書きせざるを得ない。

今も郵便局まで行って「書籍用レターパック」を送ってきたのだが、自分の字が恐ろしいほど劣化していて、戦慄を覚える。

30代くらいで当時勤めていた会社からの転職を考えて、出版社の求人に応募したことがある。小さな会社で、面接だけでOKみたいだったが、面接したその会社の役員が、私の自筆の履歴書を開いて一瞬で顔色が変わった。以後のやり取りも低調で、そのまま落ちてしまった。

私は20代半ばでブラザーの「ピコワード」というワープロを買い、以後ずっとワープロやパソコンで文章を書いてきた。コピーライターになってしばらくは「原稿用紙」に書いた時代もあったが、それもあっという間にパソコンに変わったから、手書きの文字を書く機会は恐ろしいほど少なかった。

もともとの「悪筆」に拍車がかかって、今は二目と見られないような字になっている。
今日、レターパックのあて名を書いていて、あまりのひどさに、何度も気が遠くなった。途中でめげそうになった。

何が「文章で生きてきた」だ、「文章力で勝負」だ、と自分に唾をかけたくなる。

そういや、と比較しては申し訳ないが、桂米朝師匠が「悪筆」で、揮毫を頼まれると「わしはこんな字しか書けんのや」と言い訳していた。弟子などは陰で「また、えら米朝や」と言っていたが、端正な芸風で一世を風靡した米朝師にしてからが、そうだったのだ。

えら米朝


私の父も母も達筆で、結婚式や葬式などでは筆に十分に墨を含ませて、自信満々に記帳していたが、そういうのは全く遺伝しなかったのだ。

本が届いて、添え書きを見て「うわー!」と小さな声を上げる先方の顔が目に浮かぶ。

悪筆が寄つて筑紫へやる工面





Note


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たばとも

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