そろそろゴールデングラブの表彰が近づいている。今年、遊撃手は鳥谷敬の評判が良いようだ。
阪神坂井オーナーは「今年のゴールデングラブ賞は間違いなし。獲れると思いますよ。基準はわからんけども、遊撃手でナンバーワンだと思ってます」と、頼りない太鼓判を押している。もちろん、FAの鳥谷をつなぎとめようという意図だろう。
鳥谷がゴールドグラブ候補だと言われる根拠は、今年5失策と極端にエラーが少なかったことが挙げられている。守備率は.991と遊撃手としては驚異的だ。
確かに今年の鳥谷は、ゴロの捕球も安定し、スローイングの精度も上がったように思える、少し前までは平野と一緒にノックを受けると、明らかに劣って見えたのだが、そういうこともなくなった。
しかし、今や守備率は守備の上手さを図る数値ではないと言われている。無理目のボールを追いかけずに安打にすれば守備率は向上するからだ。むしろ、失策も含めどれだけ多くの打球を処理したか(しようとしたか)の方が重要だとされる。MLBでは、すべての打球をビデオで録画し、一つ一つを評価するような守備の数値が出ているが、日本はNPB草創期から変わらない数字しか発表されていない。しかしその数字からでも野手の本当の実力は、ある程度うかがうことができるのである。
今季、ゴールデングラブの受賞資格がある72試合以上遊撃の守備に就いた野手はセパ合わせて11人いる。下の表はその比較。Gは試合数。Pは刺殺。つまり自分で飛球を捕るか、走者をアウトにした数。Aは送球してアウトにした数。Eは失策。DPは併殺への参加数。RF(Range Facter)は、P+A+Eを試合数で割ったもの。守備範囲の広さを表す。

Golden-G-20111118



いろいろなことが分かる。鳥谷は確かに失策は少ないが、136試合にほぼフル出場しながらアウトの総数が少なく、RFは11人中8番目にすぎないのだ。鳥谷は自分の守備範囲に来た打球は確実に処理しているが、その守備範囲が広いとは言えないのだ。
アウトにした総数は、鳥谷より8試合だけ試合数が多い坂本勇人よりも128個も少ない。単純に言えば、鳥谷は、坂本よりもほぼ1試合につき1個アウトにする数が少ない。エラーの数が13も多い坂本だが、鳥谷よりも守備の生産性は高いと言えよう。
RFという数字は、少し前まで信頼性があるとされていたが、今はそれほど重要視されない。この数字は投手や二塁手、三塁手の影響で大きく左右されるからだ。しかし、全く無意味ともいえない。ちなみに、MLBで100試合以上守った遊撃手でRFトップはボルチモア・オリオールズ=BALのJJハーディで4.88。西岡剛は4.74。鳥谷の4.31という数字は、MLBに置き換えてもかなり低い(MLBのRFは、P+A+Eを出場イニング数で割ったRF9が一般的。試合数で割るRFGは精度が低いとされている。上記の比較はRFG)。
ただし、今季のMLBアリーグのゴールドグラブは、RFトップのハーディではなく、RF5位のエリック・アイバーだった。→過去記事参照。ゴールドグラブは必ずしもRFや新しい基準であるRpm(+-システム)などで選ばれているわけでもない。日米ともに、守備の数字はとりわけ信頼性が薄いのだ。
NPBのこの表でも、守備の下手さで“定評”がある西武の中島裕之が上位に来ていることに違和感を持つ人も多いだろう。
結局、ゴールデングラブは投票者の主観によるところが大きい。中にはベストナインから漏れる野手の“残念賞”的な受賞もあるようだ。しかし、少なくとも守備率や失策数はRF以上に信頼性が低い。これを根拠とした選出はナンセンスだ。投票する記者の力量も問われていると言えよう。

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